生きる
最終章「待ち人」

文矢さん 作

 

 絶対に、絶対に帰ってくるから―― のび太さん、あなたがそう言ってくれた時をまるで昨日の事のように思い出せます。
子供の頃はあれだけ頼りなかったあなたが、今は私の心の支えになっています。

 彼女、源静香はそう思いながら丘の上でさわやかな風に吹かれた……



生きる 最終章「待ち人」




 戦争が、終わった。テレビの中のアナウンサーは、ニュースをしっかりと読み上げながらも、興奮した口調でそのニュースを喋った。
昨日まで、昨日までは戦争万歳、とばかり言っていた。だが、もう大丈夫なのだ、このニュースを読み上げ、喜んでもいいのだ。
そんな気持ちが、画面の中から伝わってきた。
 静香は、そのニュースを見てから数分間、動きが止まっていた。そして、その状況から数分後、彼女の目には涙が溢れていた。
 まるで、日照り続きの後の雨を見た農民の様に、まるで、大学受験で自分の名前を見つけたかの様に。
いや、それよりもずっと、ずっと、嬉しかった。戦争が、終わった。恐怖に怯えなくてもいい? 

 静香はそんな事は大した問題だと思っていなかった。そんなことより、彼女にとって重要だったのは、
のび太が帰ってくるかもしれない、という希望であった。
 日本中の人が待ち望んでいた事であった。今の総理大臣連中はそうじゃないかもしれない。今の総理大臣の名前は山本。
クーデターで殺された山本の一族の一人である。そんな大臣連中は望んでいなかったであろう。だが、天皇陛下の声だった。
全てが変わったのは。いや、骨川スネ夫が動き出したから、と言った方がいいかもしれない。

 とにかく、ほとんどの人が待ち望んでいたのだ。
『ここで、戦死者の方々の名前を表記します。又、軍人の方々も含めていますが、国に攻め込んでいて、
現地基地の兵士につきましては、東端の基地が全滅し、全員の生死不明ということで、全員の名前を載せています……』

 テレビに次々と流れていく死亡者の名前。追悼の意味か、真っ黒い画面に白い文字。
それ以外の言葉は無く、ただ淡々と流れていった。日本中の人が、この画面を見てるだろう。
知り合いの名前は無いか、家族の名前は無いか、もしかしたら自分の憎い奴の名前を探している不届き者もいるかもしれない。

 そして、静香は、それの中にある言葉を見つけてしまった。
 『軍人 野比のび太』



 その日、泣き疲れた彼女は夢を見た。懐かしい、あの空き地の夢を見た。
ジャイアン、スネ夫、静香、ドラえもん、そしてのび太の夢を見た。
 真っ赤な夕日で、空き地の木、土管、野良猫、皆で遊んでいるボール、そして皆。何もかもが赤く染まる。

 子供の頃の皆の顔。何もかもそのままだった。
のび太は、ジャイアンに怒られながらものび太なりに頑張って野球をやっていたし、スネ夫とドラえもんはその様子を笑いながら、
ジャイアンはホームランをドカンと打ち、静香は土管の上でその様子を見ていた。

「おい、のび太ぁ! お前のせいで何点損したと思ってんだ! その分殴らせろ!」
「やめてよ、ジャイアン!」
「ジャイアン、少し落ち着こうよ」
「そうそう」
 静香は思う。ああ、こんな時に私は止めに入っていたな。、と。女の子で遊ぶよりも、こっちの方が好きだった。
少し男っぽい遊びがやりたかったなぁ。
「静香ちゃん、何で泣いているの?」
 その時、ドラえもんの声。静香は気づいていなかった。自分が涙を流しているのを。手で触ってみると、確かに静香は涙を流していた。

「ほんとね。何でかしら?」
 少しの間の沈黙。そして、ドラえもんはあのドラ声で静香に対してこう言った。
「大丈夫、のび太君は死んでなんかないよ」
 え――


 その言葉を聞き終わった時、静香は目が覚めた。不思議と、冷静だった。のび太が死んだことが悲しくなかった。
いや、のび太の事がどうでもいい、というわけではない。のび太は確かに生きている、そう思ったのだ。

「ドラちゃんが言ったわよね。間違いないはずよ」
 静香は自分に言いかけるようにそう言った。そして、信じた。その可能性を。

「静香、ご飯手伝って」
 一緒に住んでいる静香の母親がそう言った。静香の母親は、『しまった』と思ったが、静香は明るくこう答えた。
「はい!」
 静香はいつもより数段明るく、朝ご飯の手伝いをして、掃除から何から何まで、太陽よりも明るく仕事をこなしていった。

 希望がまだ続いている、そう思うとやる気が沸いてきているのだ。会える。きっと。きっと。そして、また一緒に笑い会える。
そう思うと嬉しかった。

 そして、静香は朝ごはんを食べ終わり、皿洗いと床そうじも終わり、窓拭きをやり始めた。
キュッキュと気持ちのいい音が静香の家に響いた。

 そして、ふと窓の外を見るとそこには――








 人は、何かの為に生きるものである



生きる 完

 

久しぶりに来ました。素晴らしい作品ですね。本当に感動しました。
文矢さんの次回作に期待します。

アルタさん

30点


 

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