……野比被告の判決は――『懲役十五年』の刑を言い渡す!

うわぁぁぁぁぁぁ!

茶色い柱。きちんと並べられた席。――裁判所の中。判決が下り、歓喜に満ちていた。

涙を流している者までいる。

―――僕が犯人!?何で?どうして、殺人した事になってるんだ?……おかしい。僕は人殺しなんかじゃない! でも、おかしいよ。

だったら、どうしてこんな場所にいるんだろう?

もう、逃げたいよ……ドラえもぉぉぉぉぉんんんんん!

『カチャッ』 留置場の鍵が閉まる。監視員は、近くの椅子に腰掛け、煙草を吹かし始めた。

 ……その時、チャラっと音がして―――鍵が落ちた。あの監視員のポケットから。

 あれを取れば……。のび太の腕は、無意識にそれに伸びていた。どうする?取るべきか、取らざるべきか……!

気付くと、のび太は外に居た。あの高い塀を乗り越えて。 もう、何も考えず―――走り出した。

逃げなきゃ、逃げなきゃ……! ただただ、走っていった。

 

 

                 マンション

 

          第一部 「マンション一週間」

                 1

「ここが、僕の住む所か……。」

のび太は、あの後指名手配された。が、なんとか長野の田舎町まで逃げ延びた。

のび太は、村役場で住民手続きを済ませ、ため息を吐いた。――十一月末、という事もあって、

息が白くなっていた。思えば、二ヶ月もあんな重苦しい、留置場なんかに居たんだな。でも、ここまでくればもう大丈夫――多分。

 気付けば、新天地が眼前に迫っていた。古ぼけたアパート。しかし、門柱には『グリーンマンション』とあった。今時、こんな所

あったんだな。まぁ、警察から逃れられるなら別にいいけどね。

 その門柱をくぐると、入り口のドアがあった。ただ、自動ドアではなく、普通の手動式のガラス戸だった。のび太は、ゆっくりと開けた。

 中は、マンションと呼べないほど薄暗かった。電気はとおっているのかな?目の前には、すぐに部屋があり、ドアに101とあった。

その下には、小さく(管理人室)とあった。その右手には、ドアが延々と続いていた。

「ちょっとアンタ。」

――何か、声色の高い声が聞こえた。のび太がばっと振り向くと、そこには、七十代前半のような老婆が立っていた。顔が、

くしゃくしゃに歪んでいた。いや、睨んでいる、とも見えた。

「アンタ、ここに新しく引っ越してきたやつかい?」

「は、はい……そうですが…何か?」

「私が、このマンションの管理人さ。」

「はい、よろしくお願いします……。」

のび太がはっと気付くと、管理人が明らかに睨んでいた。それも、すごい目つきで!のび太は、自分がなぜこんなに

睨まれなければいけないのか、不快と同時に、疑問が波のように押し寄せてきた。

「アンタの部屋は……203だね。」

そういうなり、乱暴に鍵を放り投げた。のび太は、運動音痴だったがこの時ばかりは、なぜかキャッチできた。

「くれぐれも、デカイ音だけは出さんでおくれよ!」

それだけ言うと、ほうきとちりとりをもって、外へ出て行った。

やれやれ、この人は、僕みたいな若い人が嫌いなのかな?

しかし、ふっと息をつくと階段を上って行った。

 

                2

 

 のび太は、二階に上った。二階は、一階の薄暗い廊下とは違い、明るい。やっぱり、二階で良かったと思いつつも、202の

ドアにゆっくりと鍵を差し込んだ。

「和樹!待ってよ、和樹!」

何か、上の方から、女の高い声が聞こえた。何だろう?カップルの別れ際かな?それと同時に、ドダドダと階段を駆け降りていった。

走った者が、誰かは分からなかった。

 それと同時に、別の思考がのび太の頭の中に入り込んできた。昔、のび太は『源静香』という女子に告白した。勇気をふりしぼって。

―――が、あっけなくふられた。やっぱり、男と女なんて、こんな物だ。

 はっと我に返ると、さっき、声を上げていた女が二階にやって来た。泣いているらしい。昔ののび太なら、きっと慰めることぐらいは

できただろう。しかし、今はすっかり冷めてしまっていた。のび太はふと、うずくまっている女が、どこかで見た事がある、と感じた。

 おさげ。細い腕。 確か――自分をふった……!

「し…静香ちゃん!?」

のび太が静香と思っている女は、こちらに視線を向けた。涙を拭いながら、真っ直ぐに見ている。見れば見るほど静香ちゃんだ。

静香(?)は、不思議そうにのび太を見ている。

「あなた……誰?」

 のび太は、思わず前へ詰め寄った。

「僕だよ、のび太だよ!」

「聞いたこと無いんだけど……。」

「野比のび太だってば!ほら、覚えてるでしょ?」

「知りません……あっち行ってください!

「そんな!まさか、忘れちゃったの?静香ちゃん…!」

 女は、既に階段がわに身を退いていた。

「何いってんの!?私、『万理子』って言うんです!それより、貴方さっきから何ですか?不審者?それとも ストーカー?

キモイからあっち行ってよ、オッサン!」

―――のび太は、圧倒した。違う。この娘は違う。静香ちゃんじゃない……!

 のび太は、三階に上った。

 

                3

 

 のび太も、真相を突き止めるべく、三階へ上った。いや、のび太はもうブレーキがきかなくなっていた。

一つずつ、部屋を調べて行く。 301、空家らしい。ここじゃない。302、表札には『犬山』と書いてあった。

 ここも違う!どこかで、聞いたことあるが―――今は関係ない。そうだ。303を調べた。『沢村』とあった。聞いたこと無いから、

ここだろうか?いや。304も調べて―――見た。表札には、こうあった。

               『源』

 やっぱり!さては静香ちゃん、嘘ついてるんだな。僕を驚かせようと思って―――!

もし、誰にも話し掛けられなかったら、きっとのびたは幸せな妄想を続けられた。しかし、話し掛けた人物が、いた。

「おい」

のび太は、満面の笑みで後ろを振り返った。 そこには、二十代の、今時な服をを着た若者が立っていた。

いかにも、『僕は青春してま〜す』という雰囲気で(のび太がこういっているのには、理由があった。なんと、のび太は三十を

越えていた三十路って言う奴)。

「何ですか?」

「何ですかじゃねーよ、オッサン。万里子ん家の前で、何してんだ?」

「いや〜、ちょっと、静香ちゃんに用があって。」

すると、男は不思議そうな顔と同時に、警戒心がわいた。

「お前、万里子のなんなの?しかも、静香ちゃんって誰だ?」

―――その時だった。静香、いや、正確には、万里子の声が響いた。

「和樹!そいつ、ストーカーよ!追い払って!」

和樹は、ばっとのび太の方に振り向いた。 のび太は、何が起こったのか、理解できなかった。

え?僕がストーカー!?

 しかし、のび太は考える暇が無かった。―――なぜか?

それは既に、和樹の右ストレートがのび太の顔面に入っていたからだった。のび太は、あっけなく倒れた。頭の中が、グルグル回っている。

 が、それもすぐに終わり、視界が暗くなった。

 

のび太が気付いたのは、引越センターのトラックが来てからであった。

片付けと運び出しが終わっても、のび太はもうあそこには行かないと決めた。

 

             4

 

 ここに来て、二日目。起きてすぐ、お腹が鳴った。 そういえば、昨日から何も食べていなかった。

 コンビニ行って買いに行くかな……。財布の中を確認すると、五百円程度しかなかった。こんなもので、何か買えるか?

しかし、心中で文句を言っても始まらない。買いに行くとするか…。 のび太が外に出ると、何か甲高い悲鳴が聞こえた。

『キャー!!!』

万里子のものじゃないと確認すると、安堵の息を洩らした。

 隣から?のび太が203へ走ると、何か茶色い板が飛び込んできた。

「ゴン!」

「いったぁ〜〜!」

どうやら、思い切り開いたドアにぶつかったらしい。

 のび太がうめいたのとほぼ同時に、人が出てきた。

「あ、ぶつかりました!?本当にごめんなさい!でも、今それどころじゃないんです!あれ、あれ!」

隣人が指差した先には―――何か、茶色い物体があった。 ゴキブリ?

「あれって、ゴキブリですよね?」

「そうなんです!だから、驚いているんじゃないですか?」

のび太は、ゴキブリを、チリバサミでとり、外になげ捨てた。

「終わりました。」

隣人は、不思議そうな目で見ていた。しかし、その目は瞬く間に明るくなった。

「ありがとうございます!もう何言っていいのか……。」

「いや、そんな……。」

「あ、お隣りですよね?これから、宜しくお願いしますね!」

のび太は、何だか久しぶりに温かい気持ちになった。

 

              5

 

「野比!無断欠席とは何事か!!!」

「はい、すいませんでした……。」

 のび太は昨日、仕事を休んでいたため、上司から激を飛ばされていたのだった。 その帰り―――

 ふぅ!!何も一日中叱る事無いと思うがな……!!!……久しぶりにビール……いや、チューハイでも飲むかな……。

 そう考え、スーパーマーケット(ここで一番大きい)に立ち寄った。来るのは初めてなので、飲料コーナーを探すのに戸惑った。

―――やっと、飲料コーナーを見つけた、その時―――

「コラ!キミ、ポケットに入れている物を出しなさい!」

店員の声が響いた。―――万引きか?傍には、中学生位の少年が店員を睨んでいる。

まったく、最近の若者って一体どういう神経してるんだ?

僕が中学生の時は、こんな事―――

なぜか、のび太に視線を移した。そして、その後、のび太は奈落の底へと突き落とされた―――。

「あいつがやれって言ったんです!本当です!!」

のび太は、一瞬少年が言っている事が分からなかった。

 え?僕が言った?何言ってんだ、コイツ。

「おい、本当なのか、アンタ?」

店員がこちらに近づいて来る。

「え?違いますよ!!絶対に!何で僕が―――!!!」

「万引きしないと殺すって言ったんです!」

「ようし、ちょっと来てもらうぞ!」

「え?だから違うといってるでしょう!!」

「分かった、分かった。言い訳は後だ!!」

 のび太は、信用されずに事務所へ連行された。

 

のび太が消えた後、残った少年は、眼は気の毒そうに見ていたが、口元では微笑を浮かべていた―――。

 

               6

 

「だから、僕じゃないんですってば!!」

「店長、こいつもう警察に通報しましょう!!」

 店員が細い指で机をたたきながら、いらだちそうにしながら言った。

「ああ、そうだな!お前、電話持って来い!!

―――マズイ!!のび太は警察から逃げる理由があった。――どうすれば――!!

「バアン!!」

事務所のドアが勢いよく開いた。

――身長少し高めの男。どこかでみたような――確か小五の時、クラスメイトだった……そう、「片倉サブロー」だ!

 ――だが、なぜこんな所に?

「こいつは犯人じゃありません!ウチの正浩が出来心でやったんです!だから、「野比……」じゃなくてこの人は全くの濡れ衣です!!」

「何だって!?」

――結局、のび太が解放されたのは夜十時頃だった。店はお詫びとして、「ハムセット」を無料で送る、と言ったがもう何も

喉を通らないと感じ、断った。

 マンションに帰って来た。そこで「ふぅっ」とため息をついた。二階に上がると、隣人が廊下を這いつくばっていた。

「何してんですか?」

「はぅ!?スイマセン、私今日からコンタクトレンズにしたんですけど……落としちゃったんです!……ここで!」

のび太は、隣人をゴキブリから救ったことがあった。……ほっとくわけにはいかない……。

「僕も手伝いますよ……!」

―――その時だった。二階の階段の所。そこに「片倉サブロー」がいるのに気が付いた。

 そういえば、隣人の隣の204の大家族の中に片倉がいるのを思い出した。 のび太は急に気まずくなり、壁側に寄った。

片倉はのび太と隣人を無視し、204に走って行った。

 のび太はまた暗くなってしまった。

 


 のび太は、午前五時に起きた。――三時間前(午前二時)、隣人のコンタクトレンズがやっと見つかった。お礼として、熊の縫いぐるみ

の形のお守りを貰った。

――変な形だ、と感じた。 それはともかく、家に帰ると、大の字になってすぐ寝た。

 

 

マンション

 

第二部 「復活トリプルス」

 

「バンバンバン!!」

しきりに、誰かが玄関ドアを叩いている。――誰だ、こんな時間に?

僕は昨日、深夜まで起きていたっていうのに……。

 のび太はよろめきながら立ち上がり、畳に落ちていた鍵を拾い、玄関に向かった。

―――ドアを半開きに開けた。

 

「『野比 のび太』という男はここにいますか?」

「はい?それ、僕のことですが?」

「あなたがですか?」

 もう一度聞き返した男は二人いた。一人は、尖った口。そして、同様尖った三段の髪。狐のような眼。そしてもう一人は、

さっきの男よりも頭一つ身長が高く、大柄だ。

  どちらも、どこかでみたような気がした。



 …………ジャイアン…………スネ夫…………!!


「失礼ですが、貴方達剛田さんと骨川さん?」

「そうですが・・・まさか、のび太か?」

「やっぱり、のび太!!?」

――懐かしの再会。まさか、こんな所で―――!!

「―――と言いたい所だが。」

「え?何?」

 もう一人の、大柄な男が空を切って、言った。

 

「野比のび太――お前を殺人容疑及び留置所脱走の罪で逮捕する・・・・。」

――そういうと、愕然としているのび太の手首に手錠をかけた。

 

 

「え……!??警……察……!??」

 

 

「ぷっ」

「へっ?」

 その瞬間、信じがたい事――のび太が予想だにしなかった事――が起こった。

 

 

「あーーーはっはっは!!ドッキリ成功!!」

「ジャイアン、ばっちり、カメラに納めたよ♪」

「のび太、驚いたか!?いやーー、相変わらず面白かったぜ!!」

「え? どういう事ぉぉぉぉ!!!???」

 

 

 どうやら、これは二人のドッキリカメラ(いたずら)だったらしい。よくみると、警察手帳も手錠も偽物だった。

―――が、のび太は怒りよりも楽しかったという方が強かった。

 久しぶりだな、二人とも―――。

 

「ところで、何で二人ともここに来たの?」

「おぉ、心の友よ、よく聞いてくれた!コイツの話を聞いてやってくれよ!」

「スネ夫?どうかしたの?何があったの!?」

「それが・・僕の会社潰れちゃって・・・。」

 スネ夫の話はこうだった。

 

―――スネ夫は、父の会社(骨川物産)を継ぎ、去年若社長となった。他社競争も、いろいろな政策をとり、父の頃より

凄い成長ぶりをとげた。 しかし、融資していた大手企業が倒産し、こちらも経済的に危うくなった。 

――そして一週間前の『あの日』。

 何と、会社の金庫の鍵がなぜか、見事に開けられていたのだった。中の残金は、全部何者かにごっそり盗られていたのだった。

 ――あっという間に「骨川物産」の株主は他社に株を売り払い、倒産してしまったのだった。

 

 

「うぅ……どうすればいいんだ……」

それを聞き終わった後、のび太は自信なさそうな表情に戻った。

「ス……スネ夫?そ、そんな深刻な事、何で僕なんかに? 静香ちゃんに頼めば――」

その発言とほぼ同時に、ジャイアンが口を挟んだ。

「それなら、俺達も考えたよ。でもよ――、そうか、お前長い間ム所いたから 分からなかったのか。」

え?なんだ?僕がいない間に、一体何があったんだ?

ジャイアンは、スネ夫が泣いているのをよそに、続けた。

「遭難。静香ちゃんは、大学のサークル仲間と一緒に雪山に行ったんだ。

 お前が逮捕されて、二年経ったぐらいだったな。

 静香ちゃんを慰めるためにサークルの奴らは誘ったんだ。 まだ十九歳だった俺達と静香ちゃんは、ショックだったぜ。

なにせ、お前が逮捕されてから、静香ちゃんはずっと落ち込んでいたんだ、 お前のために。」

 のび太は落胆、いや、生まれて初めてとびきり刑事ドラマに使う手錠をかけられた時よりもショックだった。

打ちのめされた。のび太は、あの時既に嫌われたのだと思っていた。だが、そんなことは無かったのだ。静香ちゃんは、ずっと――。

 ジャイアンは、泣き続けたスネ夫のくしゃくしゃになった顔をみて、爆笑していた。のび太は、ジャイアンの話を聞こうとしたが、

やめた。二人は、理由があって来たのだ。

 のび太は、無い頭を最大限にフル回転させ、回答した。

「スネ夫のことだよ、また新しい会社作ればいいじゃないか!!」

「おお、のび太、お前にしてはいいアイデアじゃねーか!!」

「そのための金が無いから、困ってるんじゃないか……!」

 だが、スネ夫の発言は聞き流され、二人は無謀な案ばかり出しまくる。 

 やがて、話がそれ、「俺、大型店舗だしたんだよ」「えぇー!」等、世間話と化してしまった。

  スネ夫は、『こんな奴らに話しても無駄だった』と後悔した……。

 

 

「ドンドン!!」

 午前六時。また、誰かがドアを叩いてきた。

「もしかして、借金取り!?」

 怯えるスネ夫。ジャイアンが拳を握り、身構えた。 ――のびたは、思い切ってドアを開けた―。

 

 

 ――そこには、隣人が立っていた。三人は、ほっと胸をなでおろした。

「のび太さん……昨日、免許証落としていきませんでしたか?」

 あ……!と、のび太は胸のポケットを探った。『植物現状調査員』の者が所持している物だ。

 確かに無い。

「有難うございました。」

 のび太は頭を下げて、おじぎをした。

「いえ、こちらこそ、ゴキブリとコンタクトのお礼です。」

 ――その時、二人が割り込んできた。

 

「ヒューヒュー! のび太もスミに置けねーな、この野郎!のび太のくせに!」

「何!?のび太、どうしてこんな可愛い娘紹介しなかったんだよ!?」

 スネ夫は悔しがり、ジャイアンは冷やかす。 まったく、子供の頃と変わっていない。

 このまま、隣人を帰すわけにもいかないので、朝食に誘った。 いつもはカップラーメンで済ますのだが、いくら面倒くさがりの

のび太でも、失礼だと感じ、料理をしようと考えた。

 ――だが、何を作ればいいのだろう?

 

 のび太が悪戦苦闘している間に、隣人は、スネ夫とジャイアンに質問攻めを受けていた。

「好きなタイプは何?」

「バカ野郎!まずは名前から聞くのが礼儀ってモンだろ!!……で、お名前は……?」

「じ……実は……私……!」

 二人は、唾をゴクリと飲み込んだ。

 

「おーい……朝食できたよ……なんとか……。」

 のび太は、黒く焦げた卵焼きと、水水しいご飯を四人分持ってきた。

 ――さっきまで、五月蝿い程だったのに、三人共異様に静かだった。 なぜか、ジャイアンとスネ夫は恨めしそうにのび太を

見つめている。

 え?何があったんだろう?

 それはともかく、のび太は料理(?)を差し出した。

「さあ、食べてみてよ……!」

 が、スネ夫とジャイアンは手をつけなかった。

「お……俺、外で食ってくるぜ……んじゃ」

「待ってよ、ジャイアン僕も行くよ!」

 二人は、逃げ出すように出て行った。

「フ……ウフフ……美味しそうですね……。」

 そうは言っても、隣人は顔が明らかに引きつっている。

「あ……無理して食べなくてもいいよ!」

 のび太は隣人の顔をうかがいながら言った。

「いいえ、たべます!折角、のび太さんがつくってくれたんですから!」

 隣人は、卵焼きを恐る恐る口に入れた……。

「す、すいません、のび太さん!」

 隣人は、口を抑えながら203(隣人宅)へと、猛ダッシュで走っていった。

おそらく、戻しに行ったのだろう。

 のび太は、初めて『料理をしておけば良かった』と後悔したのだった……。

 

 

九時頃――隣人の嘔吐がやっと止まった。

「フフフ……もう大丈夫ですよ……。」

 隣人の顔はまだ青白かったが、もう意識もはっきりしてきたようだった(と言うものも、隣人はのび太の料理を食べた後、吐いた

のだが、ふらりと倒れてしまったのだ)。

「問題は、やはり金を盗んだ奴らだな。」

 ジャイアンは、いきなり呟いた。スネ夫はくたびれ、独り言をぶつぶつ言っている。のび太の頭も、未だに五年生の算数の問題

もできないのに、事業関係なんてもっての他だ。

 

 ―――ふと、隣人が口をはさんだ。

「あの〜、これってどういう事何ですか?」

「は?」

 のび太とスネ夫は、目を丸くして隣人をまじまじと見つめた。

「つまり、骨川さんは何をしようとしているんですか?」

「それは……盗んだ奴をつきとめて、懲らしめて、僕、いや会社の財産を奪還するんだよ!」

 のび太は、隣人に言う必要があるのかと思いつつも、いきさつを話した。

 

 

「う〜ん……もし例えば、のび太さんが盗人だとしましょう。」

「何!?盗ったのは、のび太なのか!?」

「違うよ!例えばの話だよ!」

のび太とスネ夫は、必死でジャイアンを抑える。

「のび太さんなら、大富豪の邸(やしき)と、このマンション(?)のどちらのお金を盗もうと思いますか ?」

「普通、大富豪に決まってるよ!でもそれって、当たり前じゃない?」

「そうそう、ボンビーな所に金がたんまりあるわけねーじゃん!」

ジャイアンも、ここだけ分かったらしく、頷いた。

 隣人は突然、『バンッ!!』とテーブルを叩いた。

「そこですよ!!貧乏だと分かっているなら、そんな所からお金を盗もうなんて、誰も思いません!このマンション(?)だって

貧しい人達ばかりだから、泥棒に入られた事は一度も無いんですよ!つまり―――」

(それにしても、こんなこと管理人に聞かれたら、間違いなく追い出されるな。)

 この時、スネ夫はなぜか口を挟んだ。

「いやいや、少し撤回してくれ。僕は貧しくないよ!だって、最近新しいノートパソコン――」

「分かった、分かった。それで続きは?」

「ガーーーン!!」

 あっさり自慢話を受け流され、スネ夫はショックを受けた。そして、その尖った口を、むんずと掴まれた。

「続けますよ?つまり、倒産寸前の会社のお金を盗むなんて、おかしいんです!――きっと、何か別の目的があるんじゃない

 でしょうか……?」 

のび太は向き直ると、スネ夫に聞いた。

「何か、心当たりとか、恨まれてそうな人とかいない?」

「そう言われれば……『木鳥』とかいったかな……あいつ、僕を相当恨んでいるらしい!」

 

 

 『木鳥 高雄』――『骨川物産』の元社員。

編集部にいたが、滅茶苦茶な企画書ばかり書くので、スネ夫が営業課に飛ばしたらしい。

―――が、逆ギレして、会社を辞めたらしい。

 子供みたいだな。でも、最近はよくある話か。

 会社を潰したい、ただそれだけなら、木鳥が盗んだという動機は十分にありうる。

―――しかし、あまりにも発想が子供じみているのに、のび太は疑問を感じた。

 

 

 ともかく、木鳥宅に出向く事になった。隣人は関係ないので、これ以上時間をとらせるわけにもいかない。

また、仕事があるようなので来なかった。

 仕事?仕事って何だろう? というか、隣人のこと何も知らなかったな……。

 

「家っていうか、殆ど屋敷に近いな……。」

 確かに、『木鳥』の家は、子供の頃のスネ夫の家に良く似ていた。

 屋根の所なんて、斜めのところがそっくりだ。

「よし!入ってみようぜ!!」

 ジャイアンが、門扉を飛び越えようとした時、スネ夫が急いで止めた。

「待ってよ!これ、このシールを見て!!」

のび太とジャイアンがそれを良く見てみると、『セカム』(警備会社)の登録シールだった。

「ふぅ、危なかった……こっちが不法侵入で犯罪者になる所だったじゃないか!」

赤くなったスネ夫に責められ、ジャイアンはつまらなそうに口を尖らせた。

 そもそも、人ん家にはいるのに普通柵を越えるか?

 ――インターホンを押すと、すぐ応答があった。

「私だ、骨川だ。」

 さすがに、元社長。風格がある。当たり前だが。

「あぁ、社長ですか?どうぞ入ってください。」

 

 

 家政婦に案内され、木鳥のいる部屋に案内された。

 木でできた廊下は、鼻をくすぐるようだったので、思わずくしゃみが出そうになった。

 昔のスネ夫の家より上等な造りだ。

 ――こんな家の奴が、倒産寸前の会社の金なんか、普通盗むだろうか?

 のび太はだんだん不安が募ってきた。

――家政婦が去っていくと、スネ夫は、のび太とジャイアンに何やら耳打ちをした。

「……よし、まず僕が盗んだか否かを見極めるから、二人はじっとしててよ。」

「任せといて!」 「任せとけ!!」

二人は小さい声で了解した。

「なんだか心配……。」

そっと呟いた。ジャイアンは、きっとのび太の方を睨んだ。のび太は慌てて、首をすくめた。

 スネ夫は確認すると、部屋の中に入っていった―――。

 

―――どうやら、ここは書斎らしい。その奥の机の傍に、煙草を吸いながら、椅子に腰掛けている男。

―――『木鳥高雄』だった。

「どうしたんですか?社長らしくないですよ? 何かあったんですか?」

木鳥は、幾分笑みの含んだ声で言った。 そして、スネ夫は考えをめぐらせながら口を開いた。

「じ……実は……私の会社倒産してしまったんだ……。」

 スネ夫は(わざとらしく)どっと手で自分の顔を押し付け言った。

「え〜!?潰れたのって社長の会社だったんですか!?」

 木鳥は、意外にもとてもわざとらしい声で驚いた。

 スネ夫はギラリと木鳥を見つめた。

「聞きましたよ、会社の金庫の鍵が見事に開けられてたって!でもそれって、社長の管理ミスじゃないですか?」

 

 その頃、ドアの傍で話を聞いていたのび太は、会社の財産を盗んだのは、『間違いなく』犯人は木鳥だと確信した。

 

 

 「バァンッ!!」

木鳥邸の書斎に、突然のび太が入って来た。 目の前には、木鳥とスネ夫が驚愕の目で見ているが、それどころではない。

「一体、何事ですか?」

木鳥がのび太に訊いた。しかし、のび太はそれには答えず、唐突に尋ねた。

「貴方、さっき何と言いましたか?」

 のび太は敬語を使って、声が裏返ったので、ジャイアンは殆ど笑いそうになったが、スネ夫が制した。

 なんだか、いつもののび太とは違うような気がした。

「え?会社の金庫の鍵が見事に開けられていたって……それが何か?」

「え、ええ。『金が盗まれた』って事は、どうして知っているんですか? 社長は、倒産したとしか言ってないんですよ?」

 おお!

ジャイアンは心の中で思わず感嘆した。なんだか分からないが、木鳥の意表を突いたようだった。

 木鳥は顔を歪めながら、わざとらしく言った。

「フン!だから人に聞いたと言ってるでしょう!!」

「実はこの話、社長は、警察にも元社員にも言っていません……!!それを貴方はなぜ知っているんでしょうか……!?」

「……!」

 木鳥の応答が口ごもった。

「それを知っているのは、被害者の社長、そして―――『犯人』だけなんです……!!!」

 木鳥は、後ずさりをした。――しかし、意外な一言を放った。

「私が犯人だと言いたいんでしょう? しかし、証拠はあるんでしょうね……!!?」

 

スネ夫は、ハッとなった。

 ――確かに、三人で計画(?)を練ったのだが、幾ら探しても物証は見つからなかった。 

 いや、それ以前にのび太は、何か考えているのか?

 何かこののび太は変だ。まるで名探偵が乗り憑っているみたいだ。

――のび太は、机の上にあった、ノートパソコンに目を向けた。二人の視線が注がれる中、のび太はその机に向かっていった。

――そして、カチャカチャとパソコンをいじりだした。

 その光景を呆然と見ていた木鳥は、ハッと気づき、反論した。

「何やってるんですか……!?人のパソコンを勝手に使って!!」

「これを見てください、社長も木鳥さんも……!」

二人が覗き込むと、『骨川物産 営業課 経理データ』と、画面にあった。

「おや、おかしいですね、何でこんな物あるんでしょうか……!?」

「当たり前です!私は、元社員なんですから……!!」

木鳥は、自信有り気に言った。

 

――のび太は、それを聞き逃さなかった。

「え〜〜?貴方確か、営業部になった途端、やめたと聞きましたが……!? これを開いたのはおそらく、金庫の暗証番号を

知るため……ですよね!?」

木鳥は、完全に黙ってしまった。 

 そのとおりだったのだ。

 

 

「そうだよ!!俺が犯人なんだよ!悪いか!?」

「!?」

 木鳥は、会社を辞めた時のように逆ギレ状態になった。 顔が真っ赤に紅潮し、拳がフルフルと振るえている。

 スネ夫は、その木鳥の態度に唖然とした。

「ヘヘヘ、そこの探偵気取りの言うとおりさ!俺はなぁ、俺なりの企画書を作ったつもりだったんだよ!!なのに、

それだけで異動しやがって……! この糞野郎! ぶっ殺す! YEAH! YA-HA-!」

 木鳥は、自分の机の引出しから、とびきり大きなバタフライナイフを取り出した。

木鳥はニヤリと笑った。勝ち誇ったような表情で。

そして、驚いて口が開いたままになっているスネ夫の腹にそれ突き立て―――――

 

 

られなかった。

 なぜ、木鳥はスネ夫をナイフで刺せなかったのか? それは先に、ジャイアンが部屋に入ってきて、木鳥の腹部にストレートを

叩きこんでいたからだった。

ジャイアンはゼエゼエと息をしていた。 スネ夫は三段リーゼントを直した。のび太はぼうっと突っ立ていた。

しばらくして、三人は、ニヤッと笑い、Vサインを出した。

 

夕暮れの帰り道。事情聴取が終わり、完全に木鳥が犯人ということになった。

 

「のび太、お前いつからそんな頭良くなったんだよ!!」

 ジャイアンが興奮気味に聞いた。スネ夫は思わず耳を近づけた。

「分からないよ、なんか木鳥の言った事が変だなァと思ったら……。なんか、意識が途切れて……。」

 スネ夫は、金が戻ってきて良かった、と笑みをこぼしたが、どうものび太の変わりよう、そしていきなり間抜けな顔に変わった現象に

一抹の不安を抱きつつも、歩み始めた。

「でも、金が戻ってきてよかったな!」

ジャイアンが嬉しそうに言った。スネ夫は苦笑いを浮かべている。

「良かった事は、もうひとつあるよ!」

 のび太が言った。

「何だ?」

「それは……二人に久しぶりに会って、皆で協力できたからさ!」

 ―――三人は、夕焼けに染まった道を、笑いながら走り去っていった……。

 

 

この作品は、続きます。

 

感想

あ〜〜!続きが気になります!!
隣の人、誰なんでしょう!!(そこかよ)
すずらんさん 20点
良いです。
まだあまりかかれてないのではっきりとは書けませんが続きを頑張って書いてくださいね!
しかし自分のヘタレぶりとは全然t(ry
ダックスさん 10点

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